うずたかく積まれたダンボール群のなかでも一番高い塔。
 その一番てっぺんの箱。
 その側面には殴り書きでこう書いてあった。


   ノ ス


 なんだそりゃ?
 あたしは椅子を脚立代わりして、よろめきながら一抱えあるそのダンボールをおろした。
 のす、伸す、熨す、クロノス、ノスタルジー??
 今まであけたダンボールは進学校のまじめさが出ているのか、側面に『〜部』『〜年』『中身の詳細』が必ず書いてあった。
 それでも今存在しない部活のものがほとんどであったので、あたし達がいちいち開けて必要不必要を選別していたのだ。
 部活動関係じゃないものもここにあるんだろうか。
 塔のてっぺんに積んであっただけあり表面の埃が尋常じゃない。
 雑巾でさっと払い、経年劣化と汚れで変色したガムテープを剥がして開けてみる。
 一番上に、写真が入っているだろう店舗名入りの袋があり、その下には複数のファイル、ノート、雑誌が隙間無く入っていた。
 <ノス研写真>
 写真袋にそう殴り書いてあった。
 ノスはノス研だったのか。じゃあ昔の部の遺産だろうな。
 その袋は特に封もしてなかったので、なんとなしに中身を見てみると、ネガはなく、十数枚の写真だけが出てくる。
 改定前の制服制服だ。
 2001年に今あたしが着ている制服に改定されたので、少なくともそれより前に撮影されたものだと分かる。
 快晴の澄んだ青空をバックにした写真には少し緊張した面持ちで整列した、多分集合写真だろう1枚。
 けれど。
 夕刻以降に撮られたと思われるその他の写真は、違った。

 何かを罵倒している生徒。
 人目も憚らず大泣きする生徒。
 肩を落として下を向く生徒。
 空虚な瞳をした生徒。

 ───全てが嘆きに満ちていた。

 あたしが取り出した袋の写真はすべて、生徒の悲壮感漂う姿ばかりが入っていた。
 撮影日は全て同日。
「なんで…」
 思わず息を飲む。
 なんでこんな写真なんだろ。
 なんでこんなに悲しんでいるのだろ。
 この日になにかあったのかな。
 目が真っ赤に充血させた生徒達。
 セピアに色あせるほど昔じゃない。
 まだ十年もたってない過去にいったいなにがあったのか。
 学校でなにが。
 いや。
 ノス研でなにが。
 ノス研で・・・・・・・・・。
 ノス・・・・・・・・・・・・ノス・・・・・・ノス・・・って。
「あーーーーーーーーーっ!!!」
 いきなり分かってしまった。




 ノ  ス  ト  ラ  ダ  ム  ス  研  究  会  だ




 1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう───
 大昔の預言者ノストラダムスが残したといわれている言葉。
 当時、バカな子供だったあたしでさえあんまり信じてなかった。
 確か報道系は勿論、TVのバラエティ番組でもギャグに使われていたくらい信憑性が無かった。ありえない事を前提に「大王が来たらどうする〜」というテーマでコントしていたり。
 なのに。
 この様子だと。
 ノス研の生徒達は信じてたみたいだ。
 正直、ひく。

 そんなに破滅させたかったのかよ?!
 こんな部活動がこの学校にあったなんて信じられない。
 うちの学校は進学校なので、部活にはそこまで力を入れていない。
 帰宅部上等といった校風なのだ。
 なので、遊び目的の部活などまず許可されず、学校に対して活動報告を行い、定期的に発表ないしは試合出場等が義務付けられる。
 つまり、この研究会は真に「ノストラダムスを研究」していたことが予想される。
 そして、十中八九、確かなことは。


 キョーフの大王が来なかったから解散したんだ。


 ぶはっ。堪えきれず噴きだしてしまう。
 やばい。
 面白すぎる。
 でも、写真の日付を見ると1999/08/12とある。
 8月12日?
 嘆くなら7月31日じゃないの?
 あたしの推理は違ったのかな、と怪訝に感じつつ確認しようと部誌を開いた。



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